囚われのシンデレラーafter storyー


あずさの目が、突然鋭いものに変わる。

「自分だって。いつもずっと、小さい時から、隣にいたんでしょう? 斎藤さんがいたんですよね? アルバムにだってどれも全部すぐ近くにいた!」
「は……? 斎藤って、遙人は、男だろ――」

え――?
まさか、あずさは知って――?

「あずさ、遥人に何か、聞いたのか?」
「もういいです。勝手に腹でもなんでも立てていてください!」

睨みつけていた目が今度はぷいっと逸らされた。
俺に背中を向け、その肩を吊り上げ怒りを表している。

「私の初恋は佳孝さんだって言ってるのに。初めて付き合ったのも佳孝さんなのに。ずっと傍にいた斎藤さんだけじゃなく、佳孝さんなんて、高校時代に彼女もいたのに。私の方がよっぽど、悔しいですよ!」
「あずさ……」

名前を呼んでもこちらを見ない。

「あずさ、ごめん。俺がおとなげなかった」

それでも頑なに俺に背を向ける。

でも、そんなあずさが可愛くてたまらなくて。

俺の中にあった、バカらしい悔しさなんてどこかに行ってしまう。

写真で見た、俺の知らないあずさも。
今ここにいるあずさも、すべて、何もかもが可愛くて愛おしくてたまらない。

「ごめんあずさ」

その懸命に強張らせる背中を、ぎゅっと抱き寄せる。そして柔らかな髪に顔を埋める。

「過去まで全部俺のものだったらよかったのになんて、くだらないことを思ってしまった。でも、俺の知らないあずさも知ってるあずさも、同じくらい愛おしい」

あずさの身体から少し力が抜ける。
すぐに感じるあずさの素肌の温もりと、甘い匂い。

「あずさが好きだ」

そうだ。お互いまだ、裸のままだった。
こうして触れ合っていれば、すぐに欲しくなる。

「……こっち見ろよ」

細い顎に手をかけて、こちらへと顔を向けさせるとすぐに唇を塞いだ。

ここにいるのは、大人の女のあずさだ。
少し眉をしかめて閉じた目は、それだけで色気を放出する。

無邪気な笑顔と、強い眼差しと、そして、俺だけに見せる官能的な表情。

「――ん、ん」

肩と腹部を強く引き寄せ、薄く開いた唇に深く侵入する。
熱く濡れたあずさの舌を何度も絡め取り、舐めるように重ねて。
次第にあずさの身体が自らこちらにすり寄る。

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