囚われのシンデレラーafter storyー
「……でも、それは、あなたが本当にやりたかったことなんじゃないですか?」
「あずさ……」
センチュリーを世界一のホテルにしたいんだって、佳孝さんは私に話してくれたことがあった。
センチュリーを出たのは、佳孝さんが望んでのことではない。
心のどこかにずっと、センチュリーのことがあったはずだ。
「そもそも、迷惑ってなんですか? 上手くいかなかった時、あなたが社長を解任されて、私たち家族が路頭に迷うとか? それなら、心配いりませんよ」
佳孝さんに笑ってみせる。
「その時は、私が家族を養ってみせますから。私には、あなたがくれたバイオリンがあるでしょう? これでも、家族4人で生きて行くくらいの収入はあります!」
「そうだな。うちの奥さんは凄いんだった」
そう言って佳孝さんが笑う。
「だから。あなたのしたいようにしてほしいの。佳孝さんの決めたことなら、私、全力で応援するから」
少しだけ目尻の皺ができて、佳孝さんの目が細められる。その手のひらが、愛おしげに私の頬に触れてくれる。
「ありがとう、あずさ」
優しく触れてくれるその指に、胸が甘く疼く。
「……どうしようか。ただでさえあずさに惚れまくっているというのに、さらに惚れ直してしまったんだが」
「どうしようって……」
佳孝さんが私の身体を抱き上げ、向き合う形にする。
「俺をどれだけ夢中にさせれば気が済むんだ?」
「よ、よしたか、さん……っ」
優しかった手のひらが、力強く私の腰を抱き寄せる。
「これから、奥さんを可愛がりたくてたまらないんだけど、いいかな?」
答えなんて分かっているくせに――。
ほんの少しの悔しさと、
大好きな人に愛される喜びに、
結局私は、佳孝さんの腕の中に陥落するのだ。