囚われのシンデレラーafter storyー
「あずさも、泣いてる――」
その唇が私の目元にも降って来て。涙を拭うように唇が優しく触れた。
「嬉し涙、です」
そう言うと、涙を浮かべた西園寺さんが何かをこらえるように微笑んだ。
「――動いて、いいか? あずさの中、気持ち良すぎて、もう、耐えられそうにない」
私が頷くと、それでもゆっくりと私を確かめるようにその身体を律動させる。
その間中、何度もキスをしてくれた。
手のひらをきつく握り締めてくれていた。
汗ばんだ胸、つるりとした張りのある西園寺さんの肌。間近で伝わる早い鼓動。吐息も、唇の感触も。
その体温も。
何もかもが、私に実感させてくれる。
ここに、西園寺さんがいる――。
二年という時間を埋めるようにきつく抱きしめ合った。
「――ごめんなさい、送ってもらっちゃって」
西園寺さんが滞在するホテルを出た後、タクシーに乗り音楽院の寮の前で降りた。
「こっちこそ、慌ただしくてごめんな」
タクシーを降りて向かい合うと、西園寺さんが申し訳なさそうに謝る。
「ううん、お仕事あるのに、こうして会いに来てくれただけで嬉しいです」
コンクールから、そう日も置かずに改めて会いに来てくれたのだ。
西園寺さんが手のひらを滑らせ、私の髪を優しく撫でる。
また、会えなくなる――。
緩みっぱなしだった自分の表情が、あっという間に曇って来るのが分かる。
会いたくても会えなかった人に会うことができて、愛してもらえて、それがどれだけ幸せなことか。頭ではそう思うのに、この心は既に寂しさでいっぱいになっている。
「また、離れることになるけど、これからはお互いに時間を作って会おう。俺も、休みの時にはあずさに会いに来る」
「……はい!」
「じゃあ、ゆっくり休んで。またな」
「はい。また」
手のひらが私の手に触れて、ぎゅっと握る。
私も強く握り返した。
そしてその手が離れて行くと、西園寺さんはタクシーに乗り込んだ。
寂しいけれど、寂しいなんて言ったら罰が当たる――!
タクシーを見送りながら、自分を叱る。
この日は、どれだけ言葉を尽しても言い足りないくらい、最高に幸せな一日だったのだから。