囚われのシンデレラーafter storyー


 それからは、嫌でも刻々と迫る帰国の日を意識しないではいられなかった。

 こんなにも長い時間、濃密な時間を過ごしたことはなくて。10年以上前に出会っているのに、この一週間で西園寺さんとの繋がりがより深いものになった。だからこそ、離れるのが一層辛くなる。

「――あずさが日本にいる間に帰国できればと思ってるけど、まだ、はっきりしないんだ。プロジェクトの進行によっては、休みを取れるのが遅くなるかもしれない」

最後の夜、ベッドの中で、その腕に抱き締められながら眠りにつく。
明かりの消えた部屋では、西園寺さんの低い声が鮮明に響いた。

「仕事なら、仕方ないですよ」
「そうなんだけどな」

仕事――その言葉に、また胸の奥が嫌な音を立てる。

「佳孝さん――」
「なんだ?」

私を背後から抱きしめてくれるその腕をぎゅっと掴む。西園寺さんの顔は後ろにあって見えないから、ついぽろっと言葉が出てしまった。

「佳孝さんの部下には、日本の方もいるんですか?」
「部下? ああ……日本人は一人いるよ。つい先週、赴任して来たばかりなんだけどな。どうして急に?」

聞いてしまってから、後悔する。

結局、聞いてしまっている――。

すぐに聞くでもなく、こうして時間が経ってから聞いたりして。それでいて隠しごとのできない自分に呆れてしまう。

「実はね、佳孝さんのホテル、パリ市内の散策がてら行ってみたんです。そうしたら、たまたま佳孝さんを見かけて――」
「え……っ?」

突然勢いよく私の身体を反転させた。
西園寺さんと向き合う態勢になると、強い眼差しが私に向けられていた。

やっぱり、勝手に行ったりして迷惑だったかな――。

西園寺さんの表情に不安になる。

「俺を見たってことは……一昨日じゃないか。どうして黙っていた?」
「あの、えっと、勝手に行ってしまったので、何となく言いづらくて――」
「それより、俺を見かけたんなら、どうして声を掛けなかったんだ」
「ごめんなさい。仕事中だし、その部下の人もいたし、迷惑かと……」

しどろもろどろになりながら言うと、西園寺さんが勢いよく私を抱きしめた。

「どうして、あずさと出くわして、俺が迷惑に思うんだ?」
「それは……」
「ただでさえ、1分でも1秒でも長く、少しでもあずさといたいと思っているのに――」

後ろから回された腕に力が込められて、私の首元にその顔が埋められるのに気付く。

その想いも温もりも、私に向けてくれているものだと分かっているのに。
どんどん欲張りになる自分が嫌だ。

その目に映すのは、私だけであってほしいなんて――。

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