囚われのシンデレラーafter storyー
「あずさの前だとバカになる俺を知っているのは、あずさだけだ」
「うん。そう、ですね。私しか知らない」
額をこつんと合わせて笑う。涙でぐしゃぐしゃの頬を西園寺さんが柔らかくつまんで。そして、長い指が私の涙を拭う。
「あんなにかっこよくバイオリンを弾くあずさのいやらしい姿も俺しか知らない」
「……っ!」
西園寺さんが、声を上げて笑った。
「本当に、今日のはヤバかった。日中に思い出したら、仕事に支障が出るな」
「ご、ごめんなさい……。もうしない方がいいよね」
「俺は、どちらかというと、されるよりあずさを気持ちよくしたいという気持ちの方が大きいからな……ああ、でも、あのあずさの姿はたまらなかった。それに――」
その声音が変わる。
「死ぬほど気持ちよかった」
わざとだ。耳に唇を近付けて言うのだ。
そうやって私を困らせる。だから、私も反撃に出る。
「私だって、たまには佳孝さんを翻弄させたいって、前に言ったでしょう? だから、いつかまた、不意打ちでしますから」
「怖いような、楽しみのような……? やっぱり怖い。破壊力が恐ろしいんだよ」
二人の笑い合う声が消えると、一気に現実が忍び寄る。
「――電話するから」
「私も、電話します」
「出来る限り会いに行く」
「待ってます」
どちらともなく、再び身体をきつく抱きしめ合った。