囚われのシンデレラーafter storyー
* * *
赴任先の上司が彼だと知った時。驚きとともに、私は舞い上がってしまった。
――西園寺佳孝。
かつての、センチュリーグループの若き御曹司。
日本で、同じホテル業界で働いていればその名を知らない者はいないのではないか。
そうでなくても、メディアに登場した途端、すぐに女性たちの関心を集めていた。見目麗しく、財力があり有能と来れば、女性なら一度は注目してしまうと思う。
でも、それはあまりに遠い存在で、俳優かアイドルを見ているそれとほぼ同じだった。
そして、その名がより広く世間に知れ渡ったのは2年前――。
国内ホテル業界では敵なしの、日本を代表する大企業が起こした不祥事。そのうえ、それを告発したのが、その人――まさにセンチュリーの御曹司、西園寺佳孝だった。
生まれた時から恵まれたその環境に守られて生きて来た人が、自らその環境を壊すなんて。
この人は、世間の厳しさを知らない甘ちゃんだからこその怖いもの知らずなのか、それとも、その逆なのか――。
でも、あの記者会見を見て、その答えを知って。
その後の、西園寺佳孝の振る舞いを見て、その本当の真価を見た気がする。
一見、あの容姿に目を奪われるが、あの人はきっと、そんなもの必要としない。
同じ業界にいたからこそ耳に入って来た。
不祥事を起こせば、その企業が大きければ大きいほどその反動で衝撃も大きい。株価も大暴落する。
役員のトップを連ねる西園寺家の人間は誰もが不祥事の当事者で、使い物にならない。
あの時のセンチュリーの混乱を最小限に収め、社員を守り、そのうえ企業イメージまで守ったのは、西園寺佳孝だ。
残念ながら、テレビや雑誌で報道されることの大半は、もっと面白おかしいことばかりだったけれど。
ああなってしまえば、おそらく広報戦略の一つであったであろう”西園寺家の麗しき御曹司”としてのメディアへの露出でもてはやされたことは、あっという間に裏返る。
へたに容姿が良いと人目を引いてしまうだけに、余計に好奇の目に晒される。
現に、週刊誌なんかでは、不祥事とはまるで関係ないことで特集され、私生活を追われていた記事もあった。
――あれから2年。
あの不祥事の裁判も終わり、センチュリーからもいなくなったと聞いていた。
一体、どこで何をしているのか。
そんなことも頭から消えていた。