囚われのシンデレラーafter storyー
パリでは、ランチも優雅にゆっくりと堪能する。同僚たち数人と近くのレストランに入った。
”どう、アリサ。少しは、慣れて来た?”
丸いテーブルを皆で囲む。私をランチに誘ってくれた男性、アベルがそう聞いて来た。
”まだまだです。アパルトマンも全然片付かなくて”
”まあ、まだ10日くらいだもんな。落ち着かないだろう”
皆、親しげに接してくれる。
”――あの、フランスでは同僚同士、よく会話を楽しみながらランチをするって聞いたんですが、マネージャーはどうなんですか?”
西園寺さんのことについて、探りをいれてみることにした。
少なくとも、この場にはいない。まだ一緒に働き始めて10日くらいだが、あまりそういう様子も見ない気がする。
”ああ。頻繁ではないけれど、ランチを一緒に取ることもあるよ”
”では、あまりフレンドリーな感じではないんですね?”
つい、質問を続けてしまう。
”確かにフレンドリーではないかもしれないけれど、僕たちのことはよく見ていてくれるし、仕事に対しては誠実だ。特に不自由を感じたことはない。仕事でその姿勢を見せてくれれば、それで十分さ”
”それが、あの人の距離の取り方なんだろう”
口々に同僚たちが言った。
”それでも、大事な"ここ"という場面では必ず参加してくれるし。そういうところが、とってもスマートだと思うのよ?”
この場にいた、私以外のもう一人の女性が笑顔で答えた。
”キミは、ヨシタカのファンだからな”
”あら。悪い? あんなにセクシーな日本人を見たことないわ。目の保養にするくらいいいじゃない”
”目の保養にするのがせいぜいだな。それよりまず、直属の上司、課長である私を敬うべきだとは思わないか?”
”ちゃんと、敬っているじゃないですか”
笑い合う同僚たちを眺める。
レストランを出ると、アベルが私ににこやかに話し掛けて来た。
”アリサの歓迎会は、来週あたりに予定しているからね”
”ありがとうございます”
笑顔で小さく頭を下げると、アベルが会話を続けた。
”そこにはマネージャーも出席するから。一見、冷たく見えるけど、さっきセリーヌが言っていた通り、本当に冷たいわけじゃない。ちゃんとマネージャーが出席できる日程にしてある。だから、来週”
アベルが何故か意味ありげに微笑む。
”――今週は、ヨシタカが忙しいから”
”え? でも、今週に入って、毎日早めに帰っているような気がしますけど……”
”だからだよ”
ん――?
どういう意味だろう。
”アリサもそのうち分かるさ”
含み笑いを残したまま、アベルは歩き出してしまった。