囚われのシンデレラーafter storyー
ホテルのエントランスから、西園寺さんの後に続いてロビーへと足を踏み入れる。
事前に言っておいてもらえて良かった。すぐに社員としての視線で周囲を見渡す。
”あの――”
思い切って、話してみることにした。いきなり無能の烙印を押されたくはない。
”ロビーですが。内装も装飾も文句のつけようのない完璧なものだと思うのですが、それだけに何かインパクトに欠ける気がして”
西園寺さんは身長が高いから、私が背伸びしてもその差はあまり埋まらない。
”それで?”
あ――。
私の話を聞くように、西園寺さんが少し身を屈めた。その不意打ちのような行動に、胸がきゅっと鳴る。
なんだろう、この感覚――。
それは、ひどく懐かしいものに感じた。
こんなことくらいで、ドキリとするなんて。高校生じゃあるまいし。
ただ、私の声が聞き取りづらかったから。
他の客がいるところで、このホテルのことを大声で話すわけにはいかないから――。
そんなことを一生懸命に自分に言い聞かせてこの胸の騒ぎを抑え込み、その耳に少し顔を寄せた。
"――なるほど。ロビーの内装についてはちょうど部内でも検討案件に入っていた。その詳細と君なりの改善点も含めて報告してくれ"
"はい"
そう言い終えると、西園寺さんはすぐに歩き出す。なのに、私の胸の高鳴りは収まらない。