囚われのシンデレラーafter storyー


はぁ……。今日も、疲れた――。

帰宅して、ベッドに身体を投げ出す。

 日本企業と違って、むやみやたらに残業するわけでもない。仕事第一の人ばかりでもない。

 それでも、異国の地で生活して仕事をするというのは、ただそれだけで精神的にも肉体的にも消耗する。

仕事――それが一番のプレッシャーになっていることは否めない。

 これまでも、それなりに評価されて来た。だからこそ海外勤務も出来て、経営企画という経営の中枢に配属されている。でも、裏を返せば、ここでの実績次第で日本に戻った時の自分の立ち位置が決まる。

失敗したら――。

いや、そんなマイナス思考になっている場合じゃない。

上手くやらないと。それに。
あの人に、無能だと思われたくない――。

その時、ふっと浮かんだ姿。

厳しい視線と、近寄った時の身体――。

背が高く均整の取れた身体。間近で見た時の耳の形。目の近くにあったほくろ。微かに香る、清潔な石鹸の匂い――。

って、私は何を考えているんだ。
いくらいい男だからと言って、来てそうそう、上司をそういう目で見ている場合じゃないし。

枕に顔を埋め、不埒な映像を掻き消そうとする。

第一、あの人が女を近寄らせる想像がまるで出来ない。

西園寺さんは、確か結婚はしていないはず――。

少なくとも、2年前、世間で騒がれている時に、妻帯者だという記事は見ていない。あれだけ根掘り葉掘り書かれていて、”妻”の文字はなかった。

ただ、ゴシップ的な内容では、女には困らないとか、複数の女の影とか、捨てられた女性が病んでいるとか、あることないこと書かれていたっけ――。

まあ、女が放っておかない男であることは間違いないだろうけど。

今も――指輪はしていないから、おそらく結婚はしていない。

じゃあ、恋人は?

埋めていた顔を枕から上げ、仰向けに寝転がった。

まったく想像できない。恋愛に労力をかける人には見えないし、感情も見えない。

それでも、敢えて想像するなら、身体だけの割り切った関係とか――。

もしくは、ゲイとか……。

ああ、ダメだ。何で私、あの人のことばかり考えているんだろう。
私には関係ない。女の匂いがまるでしないし、恐ろしいほどの鉄壁のガードを感じて、取り付く島もないといった感じだ。

ああ、誰かと話したい。
どうでもいいことで愚痴ったり、笑ったりしたい――。

そんな時だった。私のスマホが鳴る。

「あ……っ、瑠璃(るり)!」

電話の相手は、日本にいた頃の仲の良かった同期だった。

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