春の欠片が雪に降る




 人の邪魔にならないように歩道の端の木の影に寄って、静かに深呼吸を始めた時だった。

「あ。どうも、おはようございます」

 耳に届いた声に、ほのりは勢いよく振り返った。

「……え」

 見知らぬ人に声をかけられてしまった。
 そんなに挙動不審だったのだろうかと、ほのりは姿勢を正した。

 百七十近くある身長に、三センチとはいえど高さのあるパンプスを履いてしまっている。
 覚えているところで、少なくとも小学生の頃からすでに”デカ女”やら”巨人”やら。
 付き合った男には”圧迫感がすごい”やら。
 それはもう言われ放題で、しかしキャラ的に落ち込むなんて姿は見せたくもなく。
 笑いながら、せめて……と、少しでもスッキリ見えてくれるように考え、髪型はずっと短くボブで定着させている。
 しかしそんな努力如きでデカさの圧など消えないのもまた事実。

(デカいうえに挙動不審って、そりゃ朝の眠たい時間帯でも目につくわ……)

「吉川さんですよね?」

 小首傾げながら初対面であるはずのほのりへと朗らかに話しかけてくれたのは、小学生の頃からデカイとからかわれ続けた長身をもっても目線を少し上げて視線がかち合う長身の男の人。
 おそらく百八十センチは余裕であるんじゃないだろうか。

(……あれ)

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