春の欠片が雪に降る




「こっちはまだまだ向こうに比べたら人数も少ないじゃないですか。だからどんな人が来るんやろねってみんな結構楽しみにっていうか、緊張してって言うか。まぁそんな感じで待ってたんですけど」

「……あはは、ご期待に添えるような人間じゃないんだけどねぇ」

 わざとらしく頭を掻いて苦笑する。

(……おーい、ちょっと待ってよやっぱおかしいでしょ!)

 一呼吸置いてみると、さらに実感してしまう悲運。

(だって見てよ!? 見渡す限り、人、人、人!! 人だらけ!!)

 会社へと急ぐ、他人を気にしてる暇もない通勤途中だろう、たくさんの人たちの中で。
 なぜあの夜出会ったのが、行き先が全く同じ彼だったのか。
 自棄になっていたのだろう、あの瞬間の判断を呪いたい。

「あ、吉川さん、ここです」

 俯いたまま歩いてしまってたのか。
 ほのりは木下の声にハッとして前を見た。

 先月支店長へ挨拶に来たときにも見た、十階建てのオフィスビル。
 最上階のフロアが、ほのりの今日からの新天地だ。
  

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