春の欠片が雪に降る




「あ!」

 微妙な空気に割って入ったのは、その瀬古の隣で、ちょうどほのりの正面にいた男性だ。
 ほのりよりも少し歳上だろうか?
 瀬古とは対照的に先ほどからニコニコと笑顔を浮かべてはいたが、どこか儚げで物静かな雰囲気を醸し出していた人物だったのだが……。
 
 そんな彼は短く切り揃えられた髪の毛をわしゃわしゃと掻きながら頭を下げる。

「や、山内です。早々にすみません〜、ちょっと呼び出しくらっちゃいまして……。はぁ、もう出ます……吉川さんこれからよろしくお願いしますねぇ」

 何度も頭を下げつつ、ため息をつく。
 なんだか気の抜ける喋り方をする人だ。

「あ、いえいえ。お忙しいのにありがとうございました。こちらこそよろしくお願いします」

 ほのりは首を左右に振ったあと、つられてペコペコと頭を下げた。

 彼が手にしているのは社用のスマホなのだろう。
 それを小刻みに震える手で掴み、悲壮な顔で「ああ、このおっさんめんどくせぇ奴やんけぇ……月曜から終わっとる、また佐藤さんにシバかれるやんけ……」と、呟きながら画面を眺めている。

(うーーーん)

 なるほど、こちらもこちらでなかなか癖がありそうだ。

 いそいそとデスクに戻り大きなビジネスバックを抱えながら山内と名乗った男性はフロアを後にした。

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