春の欠片が雪に降る
店員である白髪混じり、初老の男性は背筋をピンと伸ばし佇まいはまるで執事のよう。
必要最低限のやり取りしかせず無口であったが穏やかな空気を醸し出していた。
品があるとはまさにこんな人なのだろう。
「赤ワイン、グラスでお願いします」
座っているだけとはいかないので、とりあえず注文を済ませる。
食事は不動産屋から出た後に軽く済ませた為、豊富なフードメニューの中から敢えて注文したおつまみの生ハムやチーズは盛り付けから味まで最高で。
カウンター越しに、世間話をしつつ、
"ちょっとだけ"のつもりが、思いのほかお酒が進んでしまっている自分がいた。
結局はボトルを頼んだ方がスマートだったかもしれない。そんなことを考えながらスマホに触れて時間を確認してみると。
入店時、おそらく二十時過ぎだったろうに現在の時刻は二十二時をとっくに過ぎてしまっているではないか。
この辺りの交通事情はよくわからない。
予約しているホテルは新大阪にあったはずだ。移動時間も考えてそろそろ動かなくては……と考えた時だった。
「ひとりですか?」
突然声をかけられ、そろりと上を向く。