春の欠片が雪に降る
なかったことにしたんでしょ
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「元々僕の教育係、瀬古さんがやってくれてたんですけど」
嬉しそうにラーメンを啜ったあと、木下が言った。
「そうなんだね」
「はい。んで、最近は一人やったんですけど、次は自分の復習も兼ねてやってみろってことらしんですよ、教えながら復習」
午前中は、客先から戻ったシステムサポートの人たちに中田と共に挨拶に行ったり、諸々の説明だったり、何度か関東支店から電話が入って対応したりバタバタと過ぎた。
そうしてやってきた昼休み。
木下に誘われ、会社近くの中華屋でランチをしている最中だ。
できれば関わりたくなかったのだけれど、それはどうやら無理らしい。それならば、仕方がないので出来るだけ良好な関係を……適切な距離で築きたいものだ。
どの会社も大体昼休みの時間帯のため店内は混雑している。ほのりはカウンター席に木下と並んで座り、注文した麻婆豆腐を口にしながら相槌を打っていた。
これが、なかなかに辛い。
「吉川さんはベテランやし、俺が頼りなくてもちょうどいいと思われたんかもやけど」
「いや、私何もわからないよ、迷惑かけると思うけどごめんね」
関東ではずっと営業事務をしていたし、それなりにどんな業務内容なのかは知っているつもりだ。
けれど、知っているのと実際に携わるのとでは全く異なってしまう。
「あ、支店長」
当たり障りのない会話をしていると、木下がポケットに入れていたスマホを取り出し眺めながら呟いた。
ほのりは咄嗟に腕時計で時刻を確認したが、十二時半を過ぎたところ。
昼休みを過ぎてしまっているわけではなさそうだ。