春の欠片が雪に降る
「はい、あ、いえいえ大丈夫です。はい……え、吉川さんすか、いますよ」
突然自分の名前が出たことに驚いたほのりは、聞き耳を立てる。
「えー、そりゃ急っすね、あちゃ〜」
困った様子の木下は通話を終えた後、ほのりに言った。
「吉川さん」
「何事??」
「支店長が飯食ったらすぐ戻ってきてって」
だから何事だと眉を寄せていると。
「ここ何日かうちの事務員さん休んでたんやけど、辞めるって連絡あったんですって」
「……そうなの?」
そういえば、先月挨拶にここを訪れた際に女性が一人いたはずだ。そして確かパートで事務をしていると名乗ってくれていた。
朝も休んでいる人が一人いると、中田が口にしていた記憶がある。
その女性のことなのだろう。
「なんや、ずっと瀬古さんやらとうまくいってへんかったんですけど……」
木下が水の入ったグラスを持ちつつ、瀬古の名を出した。
ほのりは頭の中で朝の刺々しい態度を思い返しながら、なるほどなぁ、なんて妙に納得してしまっていたのだった。