春の欠片が雪に降る
「瀬古さん、それは関係ないでしょ〜セクハラっすわ」
ピリピリとした空気に似合わない明るい声。
「吉川さん、すいません。瀬古さんめっちゃ人見知りなんすよ。僕も最初だいぶやられたんで仲間ですね」
「え?」
木下がいつのまにか瀬古とほのりの間に立ち、愉快そうに笑顔を浮かべている。
(この人の言い方に人見知りとか関係ある……?)
「俺は人見知りちゃうぞ! しかもセクハラもしてへん!」と、瀬古が叫んでいるが、そっちのけで中田に話しかける木下。
「支店長、ほんなら吉川さんと外回れって言ってたんはどないしたらええっすか」
「……ああ、そうだな、事務の仕事はとりあえず俺も手伝うから明日からは昼から動くか」
中田がややテンポを遅らせ答えると、木下はほのりの方に振り返った。
「午前中、事務所のことやってもらって昼から外出なるみたいですけど。僕もやれること手伝わせてもらうんで、ちょっとの間お願いします」
そう言って申し訳なさそうに、顔の前にゴメンと手を上げる。
彼が謝ることではないと思うのだが、どうやら予想どおりのムードメーカー的存在みたいだ。ほのりは自分の言い方も、今の立場上恐らく正解ではなかったのだと反省しつつ。
「お願いします」
と、軽く頭を下げた後、
瀬古と支店長に向き直す。
「でしゃばった言い方をして、すみませんでした」
「いや、まあ、俺も言い方がダメだったな、申し訳ない」
すぐに中田が答えた隣で、瀬古は死んでも謝るか! らしき空気を醸し出しながら横を向いてしまう。
嫌いだ、と思うけれど。そんな感情は仕事中、せめて定時の十七時までは飲み込むべきだろう。
「瀬古さんも、すみませんでした」
敢えてゆっくりと言葉にすると、返ってきたのは「別に」のひと言。