春の欠片が雪に降る


「いっつもラーメンやらチャーハンやら大盛りでしょ。今日は可愛い量じゃない?」

「あー、ほんまっすね。まあええんですよ、吉川さんと一緒のとこ入りたかったし」

(……そうでございますか)

 可愛くない量を食べる木下の本日のランチは、見渡す限り女性ばかりのイタリアンカフェだ。

 客層が客層なので、ランチセットの量も中華セット大盛りに比べるとやはりボリュームダウンしてあるだろう。
 それを気遣ったなら、含みを持たせるでもなくさらりと木下は言ったのだ。

 さらには、そんなセリフを吐いておいてまわりの熱い視線や、かっこいい、この辺のビルで働いてる人かな? なんてコソコソと話す声には気が付いていないのか?

「居心地悪くない?」

「え、うまいっすよ」

 腹減ったらまたなんか食いますわ、と笑う木下に、いや聞いたのはそれじゃないのよ、と突っ込みたくなる。

「めちゃくちゃ見られてるの、嫌じゃないの?」
「あー」

 さすがに、刺さる熱い視線には気がついていたのか困ったように笑うけれど。

「別に知らん人から顔褒められても、面倒ですし」

(なるほどな)
< 49 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop