春の欠片が雪に降る
週末でわかってはいたけれど、やはりこんなものは、もう慣れっこらしい。
「ま、そっか。慣れてるよね」
気持ちを自覚はしてしまったが、はまり込んではいけないし望んでもいけない。
何かに心を支配されることなどもうごめんだ。
「慣れてるとかやなくて。まわりから見られたりすんの、吉川さんが気になって嫌やったらやっぱ男率高い店のがええかなぁ」
「は?」
「あー、でもなぁ。吉川さんが注目されんのも腹立つか」
(おいおい)
大真面目に何を言ってくれているんだろう。
「注目されるような女なら、今独り身じゃないでしょが」
「いや、それ見る目なかっただけですから」
まだメインのハンバーグが残っているほのりに対し、全て食べ終えた木下は「うーん」と腕を組んで背もたれに体を預ける。
「綺麗っすよ、俺、結構見惚れて仕事サボってたりしますけどね」
「サボらないで」
「冗談っす」
どこからどこまでが冗談なのか。
(決意は固いぞ……)
気を抜いてはいけない。
気を抜くと、うっかり木下の発言の全てを鵜呑みにして自分の気持ちを許してしまいそうになる。
そんなことになってはいけない。
恋にうつつなど抜かすものか。
ほのりは知っている。
最後に裏切らないのは自分だけだし、もう一人で生きていけばいいじゃない。と、気がついた時の、あの絡まった足元が解かれていく感覚。
手放してなどたまるものか。