春の欠片が雪に降る
(何より、若いからな、この子)
星の数ほどいる女の中から、きっとよりどりみどり、言葉通り選び放題。
そんな男が、わざわざ八つも歳上の女を選ぶ必要などない。
体育館で会った女の子は"優しい"と木下を表現した。
慣れない土地にいる人間への溢れる気遣い。
(優しい人間は、みんなに優しい)
「そろそろ出ます?」
「うん、そうだね」
今日は近場の客先中心に挨拶に回る。
移動手段は徒歩。
気合を入れて立ち上がり、自分のバッグと資料の入った荷物を手に取ろうとした。
「今日は体力勝負っすね」
木下は目を細めて、ほのりを労るように優しい声を発しながら重量のある荷物を手に取った。
(……そーゆうとこだってば)
これまでの自分なら飛びついていたんだろうか? ほのりは自問自答しながら小さく息を吐いた。
"若い男に溺れて、ズタボロのおばさん"
そんなものに成り下がらないよう必死に、踏ん張り続けているのに。
さりげなく、甘やかすのをどうかやめて。