春の欠片が雪に降る
もうすぐ産休に入るという美波は、一時期つわりが酷く体調も崩していたが。
どうやら今は元気そうだ。
気軽に会話ができることにホッとしてしまう。
通話を終えたほのりは、再び顔色の悪い瀬古へ視線を向けた。
「すぐにデータ送って、原本は今日発送で本社に送ればって。オッケーもらえましたよ」
そう言葉にした瞬間、突風でも吹いたかのように体が押される。
いや、瀬古が両肩をガシッと掴み、あろうことか壁に押し付けているのだ。
(……痛い)
なんだ、この色気のない壁ドンもどきは。
「お前、めっちゃええ奴やったんやな!?」
(……え、ちょろ)
ほのりは昼間の木下の言葉を頭の中で思い返しながら、瀬古が嬉しそうな笑顔を向けてくるのを凝視していたのだが……。
「えー、いつの間にそんな仲良くなったんです?」
はたから見ればそう映ったのだろうか?
どことなく冷ややかな声の方へ目線を移すと、微笑む木下がいた。