春の欠片が雪に降る
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「いや、無理っす、反対です! やめといて下さい!」
早いもので、大阪にやって来て一ヶ月が経った。
木下と客先をまわり、合間に事務作業。
そして関西支店でメインに取り扱っている建築向けソフトの勉強をしていたならば、もうあっという間に冬の気配ではないか。
「んなもんゆうたかてよ、安心安全な手堅いとこばっかまわしてられへんやろが。こいつかて新人の女やあるまいしよ」
「向こうと比べたら、ただでさえうち客層やっかいやないですか! デカいとこ相手されてへんねやから」
「それがなんやねん。仕事やねんからしゃーないやろが」
月初のミーティング。
陽気なようで、その陽気さが一定。ある意味冷静さを失うことの少ない木下の大声が続いている。
受け答えしているのは瀬古だけで、山内は「き、木下くん落ち着いて……」と、か細い声でオドオドとしながら見守っているし、中田に至っては明後日の方向を眺めている。
(それでいいのか、支店長)
「あの社長はほんま危ないですって! 俺何回キャバクラ連れ回された思ってんですか!」
「キャバが何やねん」
「何やねんちゃいますて! 女の子大好きなんですってあの人マジで! つーかなんすか!? そりゃ次の入れ替え時期近いから挨拶行きましたけど吉川さんと! 急に営業指名するて、それこそキャバとちゃうし!」
(どんな社長なんだか……)
内心、呆れた声がこぼれた。
本格的に事務員の募集も始め、ほのりもそろそろ瀬古や山内、木下と共に本来の業務を始めていかなければならない。
担当の振り分けを相談し始めた頃に『次の更新の時、前来た子来させてくれたら前向きに考えるで』と、そんな連絡を寄越したのだという木下の担当する顧客。
それがキャバクラ好きの社長様らしい。
「あのー、発言してもいいです?」