春の欠片が雪に降る
「構わんよ」
そう言ったほのりに、やっと中田が支店長らしく反応を見せた。
「木下くん、私、ほら……女の子って歳でもないしさ。やれるだけやってみるよ。わかんないことだらけだし助けてもらうこと多くなるけど」
言うと、木下は露骨に嫌な顔を見せた。
「まあ、木下。今までのやり方で競合に太刀打ちできない部分があったから。テコ入れ的な意味合いでわざわざ吉川が来たんだし」
「そや。ガキみたいなことゆうてんなや」
大きく頷いた瀬古の声を最後に、話題は移る。
隣に座る木下をチラリと見ると、これまた珍しく眉を寄せて不機嫌な様子を隠さない。
(嬉しくないわけじゃないけどさぁ……)
あれもできない、これもできない。
そんなことを言ってられる程、生きていくのは甘くはないし。
甘えてられる歳でもない。
しかし、ほのりは決して態度には出せないけれど、何ともむず痒い喜びを胸に抱えていた。
瀬古とようやく打ち解けられてきたかもといった頃から、ここ最近は木下とは仕事の話以外はあまりできていなかった。
瀬古に釘を刺され、ほのり自身が不必要な接触を避けていた部分もあるし。
どことなく木下の方も距離を置いていたようにも思う。
(私が勘違いしかけてるって、瀬古さんに言われでもしたかな)
勝手にそう解釈をしていたのだが。
心配されて密かに喜んでいるだなんて、重症すぎやしないだろうか。
はぁ……、と小さくため息を溢したら。
「ほら、やっぱ吉川さんも嫌がってますやん!?」
違う感じに受け取られてしまったようだ。