春の欠片が雪に降る


 四十代半ばの二代目社長は、耳の隠れるラフな長髪。少しブラウンがかった髪をかきあげる際にギラギラと光る腕時計が目についた。

 スラックスの上は作業着で、半分ほど下げられたファスナー。覗くネクタイは緩められていてシルバーのゴツゴツとしたネックレスが見える。

(……若いし派手な社長だな)

 なんてのが、ほのりが持った第一印象だった。

 契約の更新自体はあっけないほどにすぐに決まったのだが、問題はそこからだった。

 これから長く世話になるのだからと、相沢建設の社長である相沢は「軽く飯にでも行こうや」と、
ほのりを食事に誘った。
 迷ったほのりだったが、ミーティング時確か木下は”よく連れ回されている”そう言っていたのを思い出す。

 時刻はちょうど定時である十七時半だったこともあり、直帰の連絡だけ入れますね。と中田に伝えれば二つ返事で了承を得た。

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