春の欠片が雪に降る


 そんな経緯で、ほのりは今、相沢と向かい合って座っている。
 目の前にはビールと、軽い食事……いや、おつまみなんかが用意されている状態だ。

「関東支店って、東京から転勤してきたん?」

「はい。先月頭に。まだひと月ほどなんです」

 そんななんて無い会話だけならよかったのだけれど。
 やはりお酒の席なのでそんなわけにもいかないようだ。

「ええ女やのになぁ。向こうに男置いてきたんか?」

「え!? 男ですか。いや、お恥ずかしながらこれといって誰もおらずで」

 ぱぁっと相沢の表情が明るくなった。
 それと同時に隣に置いてあるバッグの中でスマホが振動している。
 一度途切れては再び……それを数度繰り返しているのだが、こいった場でどうすればいいものなのだろう。

 (うーん……)

 チラリと覗き込めば着信相手は木下だ。

 過去を思い返せば、取引先と飲みに出た営業が電話に出ることなどほとんどなかったし、本当に急ぎの時にはメールや留守電を入れて返事を待った。

(メールとか入ってないしな……あとで、折り返そうかな)

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