春の欠片が雪に降る



 甘い声を囁く唇が、時に獣のように噛み付き、かと思えば優しく、緩急激しく太ももの内側に何度もキスを落とす。

 大きな手のひらが膝を包み込むように持ち上げ、妖しく光る瞳は、もう随分と誰の目にも触れさせてはいなかった部分を見つめた。

「恥ずかしいことばっか言わないで」

 思わず顔を手で覆った。

 この行為を当たり前みたいにする空気。
 置いていかれないよう意地になって、緊張と迷いを隠しながら強がりな声を紡ぐ。

「はは、おもろいっすね。恥ずかしいことしようやって時に何ゆうてんの」

 ほのりの顔を見て、軽く笑い飛ばしてから、彼は――声をかけられた店でカズキと名乗った男性は、目を細めその表情から笑顔を消した。
 これから抱こうって女への優しさとか、愛情とか、もちろんそんなものは一切見つけられない。
 欲情に揺れる瞳。
 それでも。
 
「ほんまキレイねやね、お姉さんの身体」

 甘く安い台詞に満たされてしまう。

「……っ、あ」

 覆い被さる、自分の身体よりも大きく、逞しい重み。
 肌の暖かさに込み上げてくる何か。
 シーツの中に沈められてく理性。

 それでも、どこかで溺れきれない。
 与えられる快感の中、思考が鮮明なのは苦しい。

< 7 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop