竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
今度は確かに聞こえた。はっきりと私のことを「ママ」と呼んでいる子供の声だ。男の子の声で、なにやら不穏なことをしゃべっている。


(僕を産んでって言った? 私、この世界に来て、頭がおかしくなっちゃったの?)


『ねえ、きいてる?』
「ぎ、ぎやあああ!」


 不満そうに話しかけるその声に、私の頭はもうキャパオーバーだ。パニックで叫び声をあげ、腰が抜けたように床に座り込んだ。


(だ、誰か、助けて……!)


 重い体をなんとか引きずり、廊下に出る扉に手を伸ばす。しかしいっこうに力が入らず、私はその場に倒れてしまった。


「リコ! どうしました? 叫び声が聞こえましたが、何かありましたか?」


 ドンドンドンと私の部屋の扉を叩く音がする。どうやら先程の私の叫び声で同僚のリディアさんが駆けつけてくれたらしい。


 助けに来てくれた人がいるだけで、希望が湧いてくる。私はなんとか立ち上がり、ヨロヨロと部屋の扉まで歩いて行った。しかしその間も私のお腹はポコンと中から蹴られるように動いている。さっきよりは落ち着いているけど、やはりこの異常な出来事が夢じゃないのを表していて、ものすごく怖い。


「リディアさん! た、助けてくださ……」


 この状況を見ればお医者さんが診てくれるはず。ここは日本じゃないから、私の知らない病気なだけですぐに治療してくれるかもしれない。私はようやく扉までたどり着き、震える手でドアノブに手をかけた。


 
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