竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
30 本物のお妃様
「竜王様、アビゲイル様! ご婚約おめでとうございます!」
「本当にお似合いの二人ですわ!」
「選定の水晶は、あんなに綺麗に光るのですね。それだけでも来たかいがありました」
あちらこちらから飛び交うその言葉に、よけいに頭が混乱してくる。
(アビゲイル様が水晶で選ばれた? それじゃあ、私のお腹にいる卵くんは、なんだったの?)
そっとお腹を叩いてみるも、何も反応がない。まるではじめから、何も居なかったかのように思えるほど静かだ。
(もしかして、異世界に来たことがショックで、幻聴を聞いてたの……?)
私に迷い人としての力はある。それは本物だ。竜王様だって認めてくれている。
でも私は、竜王様の「運命の花嫁」ではなかったのだ。
その証拠に、目の前には幸せそうに頬を染める、アビゲイル様の姿があった。隣には竜王様が立っている。こちらに背を向けているので、表情はわからないけど、きっと喜んでいるだろう。
「まあ! 迷い人様。お祝いに来てくださったのですか? 父から子どもの乳母をしたいと聞きましたが、今日はそのことで?」
私に気づいたアビゲイル様が、優雅なほほ笑みを浮かべ、こちらに歩いてこようとしている。ふわりと広がる白いドレスを着た彼女は、まるでウェディングドレスをまとっているようで、目の奥が熱くなってきた。