竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
「この女を襲ったって、あれはアビゲイル様がしたことではないですか! わたくしはあなたの指示どおり、お兄様の石で動かしてるフリをしろって……。たとえ疑われても、お兄様の竜石ではあそこまでのことはできないと、あなたが証明してくださると言うからやったのです!」
「そうだったかしら? でも今日であなたは本当にこの女を誘拐してしまったわね。十分犯罪者だわ」
「そ、そんな……」
ガクリと体の力が抜け膝をついて、ライラは泣き始める。すると今度はギークがアビゲイル様を指差し、叫び始めた。
「約束が違うじゃないか! 妹を犯罪者にするなんて、どういうつもりだよ!」
「はあ……気づいていないようですけど、あなたも犯罪者よ。妹さんより重罪なこと、わかっておりませんの?」
「はっ? なんのことだよ!」
「これよ」
うんざりした顔のアビゲイル様の手には、緑色のボール状のものが乗っていた。
「これはあんたが、競技会で騒ぎを起こしたいから竜に食べさせろって言って、俺にくれた葉っぱだろう。それがどうしたんだよ」
「……ああ、あなた競技会で起こったこと、まだ知らなかったのですね。あなたが食べさせたこの危険な葉で、大変なことになったのですよ」
「き、危険な葉? なんのことだ?」
ギークの顔には脂汗がたらりと流れ始めている。声も震え、アビゲイル様に騙されていたことの恐ろしさが、じわじわと彼を襲っているのだろう。
「これはどの国でも禁止されている、竜狂いの葉よ。種を持つことすら重罪なのに、葉を竜に食べさせたとなったら、大変なことになるでしょうね」
「あ、ああ、あれは、あんたが眠らせる葉っぱだって! 俺は最終競技でヒューゴに勝ってもらいたくて、ライバルのキールに食べさせただけなのに! うああああ……!」
ギークとライラは自分たちがアビゲイル様に騙され利用されたことを知り、頭をかかえ嘆いている。そんな二人を虫けらでも見るようにアビゲイル様は、鼻で笑っていた。