竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜


「……もしかして、この迷い人が竜王様の妾にするよう、あなたに頼んだというのも嘘なの?」


 ゆらりと亡霊のように立ち上がったライラの目には、怒りの炎が燃え上がっていた。涙の痕も痛々しく、頬がぴくぴくと動く様はとても恐ろしい。なのにそんなライラを見ても、アビゲイル様の顔はぴくりとも動かない。


「そんなこと、わたくし言った覚えはないわ。あなたも思い込みの激しい方ね」
「じゃあ、この女は何もしてないの……?」
「さあ? わたくしは、何も知らないわ。あなたが勝手に嫉妬して、乱暴なことをしただけよ」
「そ、そんな……」


 アビゲイル様は自分に(たか)る虫でも払うように、ライラに向かって手を振った。それを見たギークは立ち上がり、ずんずんと彼女に向かって近づいていく。


「待ってくれ! じゃあ、俺が最初に捕まえたことを逆恨みして、竜王様に騎士団を辞めさせるようにこの女が言っているいうのも嘘か! それに俺を騎士団長にするというのも!」

「兄妹そろって世間知らずね。あなたくらいの竜気で団長になれるとでも?」
「クソ! 俺らを騙しやがって!」


 シャキンと音がして、ギークがナイフを手に取ったのが見えた。しかし次の瞬間、ドンという音とともに、ギークとライラはアビゲイル様の出した竜気で、数メートル先まで吹き飛ばされてしまう。一瞬の出来事で声も出ず、私は呆然とその光景を見ているしかなかった。
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