竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜


 残ったのは二人のうめき声と、アビゲイル様の飽き飽きした、ため息だけ。


「あら、ごめんなさいね。わたくしは、あなたたちより、竜気の扱いがうまいの」


 二人を甘い言葉で騙し、使い捨てたことにも、目の前の彼女はなんの罪悪感もないらしい。上品にハンカチで手を拭くと、初めて会った時のような美しいほほ笑みを私に向けた。


「さあ、次はあなたの番よ」
「ヒューゴくん……」


 いつの間にかアビゲイル様は、ヒューゴくんをつなぐ鎖を手にしている。目の前の怒り狂った竜が、今にも自分に飛びかかろうとしているのに、彼女はひどく冷静だ。


「暴れると痛い目にあいますわよ」


 すると抵抗して暴れるヒューゴくんの体が、一瞬電流が走ったように震えた。口枷がついているので、叫び声すらあげられず、苦しそうにうずくまっている。


「ヒューゴくん!」


(もしかしたらあの鎖に、なにか仕掛けがあるのかも。私もまだ走れないのに、どうしたらいいの?)


「赤のリボン……。そうだったわ。あなたはこの国に現れた時から、高貴な色である赤の衣を身に着けていたわよね」


 アビゲイル様は私があげた赤いリボンを、ヒューゴくんの首から乱暴に引っ張ると、地面に落とし足で踏みつける。そして口枷の隙間から、例の「竜狂い」と呼ばれている葉っぱの塊を、強引に押し込んだ。
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