竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
32 愛する人を助ける者
「そ、そんな、こんな大きさ……」
アビゲイル様のおびえた声とともに、私の髪をつかんでいた手が離れる。ザリザリと地面を擦る音がして、彼女が後ずさりしているのがわかった。
真っ暗だから何も見えないけど、さっきまで自信にあふれていた彼女が、恐怖におののいていることだけはわかった。
「私じゃない、私じゃないわ! これはすべてお父様が……!」
痺れた体をなんとか起こすと、少しずつ周囲が明るくなってきた。それと同時に地面を震わせるような声が響き渡る。
『リコに何をした! もしやリコを殺そうとしたのではないだろうな!』
「竜王様……!?」
最初に竜化した姿を見た時と同じだ。ううん。その時とは比べ物にならないくらいの大きさの黒竜が、私たちを見下ろし叫んでいる。その声は空気を震わせ、遠くまで届いたようだ。王宮の方からたくさんの竜たちが返事をするように、いっせいに鳴き始めた。