婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
「私達夫婦は家督を弟に譲り、領地に行くことにした。昔から言っているが、私は果物が大好きだから品種改良などして余生を過ごしたいと思う。おまえの好きな苺を、もっと甘く改良できるように頑張るつもりだ」
1人娘を亡くして王都に居るのが辛かったのだろう。もともと好きだった領地での仕事が、両親の心を癒やしてくれていたらほんの少し救われる。
「愛する娘に先に死なれるのが、これほど辛い事とは思わなかった。でも私は諦めない! また生まれ変わったら私の娘になりなさい。その頃にはきっとおまえの好物の苺を、たくさん食べさせてやるから」
ボタボタと大粒の涙が溢れ、止まらない。エドが何も言わないところをみると、両親はもう生きていないのだろう。それでもエドが私の魂を魔石から呼び戻して、この手紙を読んでくれたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。
「エド、ありがとう。お父様からの言葉を聞けて、本当に嬉しかった」
エドは少し淋しげに私を見つめ、指で私の涙を拭おうとする。しかしすり抜けてしまうのを思い出したのか、自分の指をじっと見つめていた。
「君の涙を拭いてあげる事もできないなんて」
「……でもその気持ちが嬉しいよ」
そう言うとエドはほんの少し笑った。しかし次の瞬間その笑顔がフッと消え、気づけばエドの体は床に倒れ込んでいた。