婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
呆れた顔で言うエド、いえ、フィリップ殿下は、掴んだ手を離そうとしない。今の私の体は10歳の伯爵令嬢で今までの記憶もあるから、エドがこの国の第3王子だというのはわかっていた。
「あの、フィリップ殿下、手を離していただけませんか?」
どこに誰がいるかわからない場所だ。城内とはいえ護衛や従者が近くにいるはず。そう思ってエドの名前を言わなかったのに、エドはあからさまに悲しい顔をしている。
「今は2人だから、エドって呼んでほしい」
「誰かに聞かれたら、大変なことになりますよ」
キョロキョロと周りを見回すと、たしかに誰もいないように思える。だけど、油断ならないわ。とりあえず落ち着いて話したいと思っていると、「殿下! 殿下どこですか?」と人を探す声が聞こえてきた。「もう来たか」とエドが呟いたところを見ると、エドを探している声なのだろう。
「もしかしてサボってたの?」
「違うよ。早めに終わったから、ここで休憩していただけ」
「それをサボってたというんじゃ」
「違うってば」