婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される

 コソコソと喋っていたが人の気配を感じたのだろう、「ここでしたか」と従者が駆け寄ってきた。私は「今だわ!」と思い、サッと握られていた手を引き抜いた。エドの冷たい視線を感じるけど、無視をする。


「あれ? 殿下、こちらの御令嬢は?」
「ああ、ここで休憩していたら僕の足に引っかかって、彼女が転んでしまってね」
「うわ! 殿下、ご令嬢のドレスが泥だらけじゃないですか!」


 そう言われて初めて自分のドレスを見ると、白い綺麗なレースのドレスは泥まみれだった。このドレスはローズのお気に入りだ。私自身は何も思わなかったが、心の奥から悲しみが湧いてきてしゅんとしてしまう。


 なんだか私サラとローズの意識は混ざっているみたい。しばらくすると私の中にも「せっかくお父様が買ってくださったのに」と、ガッカリする気持ちが遅れてやってくる。


 可憐な10歳の令嬢が白いドレスを泥だらけにして落ち込んでいる姿は、従者の目にもかわいそうに映ったのだろう。エドに目配せをしていている。それに気づいたエドがにっこりと微笑んで、わざとらしく提案をしてきた。

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