婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
カツカツと大人数の足音が去った音がする。エドは私を抱きかかえたまま、足早にさっきまでいた衣装部屋に連れて行った。中にいたメイドに水を持ってくるよう伝え、私をソファーに寝かせる。
「ほら、起きなよ」
「……」
「その急に具合悪くなる技、妃教育から逃げてる時によく見てたから」
「はあ〜」
私はむくりと起き上がると、少し照れくさそうにエドを見た。エドはまだなにか怒ってるみたいで、機嫌が悪い。
エドは控えているアヴェーヌ家の者に私を迎えにこさせるよう、メイドに伝える。少しだけ2人で話す時間がありそうだ。エドは私に水を渡しながら、真剣な表情でこちらを見ていた。
「今回は良いけど、あまり僕の前で具合悪くなるふりはやらないでほしい。怖くなるから」
「……ごめんなさい」
そうだった。エドは私が死んだところを、見たんだった。今の私はエドと同じで、サラの容姿と面影が似ている。だからこそあの時の事を思い出すから、怖いのだろうな。
「それにしても、ジーク王子はなんで、サラを連れて行こうとしていたかわかる?」
「それが……」
ジーク王子に無かったはずの魔力があると言われた事を話すと、エドは「そうか……」と言って黙り込んでしまった。コンコンと扉がノックされ、「アヴェーヌ伯爵家の者が迎えに来ております」と告げられる。
「さて、今日のところは帰らないとね。明後日に時間が取れたから、その時にゆっくり話をしよう」
「うん! 心配かけてごめんね」
そう言ってにこやかに別れたのだけど、次の日にエドがもっと心配するような出来事が起こった。キース王国のジーク王子から、私に婚約の申込みがあったのだ。