婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
いつもの調子で軽口をたたきながら店に入ると、俺のズボンを何かが引っ張った。少しよろめいたがいつもの様にその可愛い何かを踏まないよう、くるりと振り返る。
「お父さん!」
小さな手で俺のズボンをぎゅっと握りしめ、こっちを見上げるのは5才の愛娘「サラ」だ。ニコニコして店の主人を見つけて、行儀よく朝の挨拶をしている。
「おはよう! サラちゃん。ちょうど良かった! 君のお父さんから仕入れた、甘い苺を使ったクレープを出してあげるよ」
「苺! クレープ!」
「良かったな。サラは苺が大好きだもんな」
「うん! サラ、果物の中で苺が一番好き!」
娘が頬を苺色にするくらい喜んでいるのを見ると、果物屋で良かったとつくづく思う。
「わあ! お店の中に苺いっぱい! たくさん使うんだねえ」
さっき店に届けた5箱の苺を、まじまじと見て驚く姿も可愛い。そのうえ苺に触れないように手を後ろに組んで、鼻を突き出して香りをかいでいる姿はもっと可愛い。とにかくうちの娘は、姿もやる事もぜーんぶ可愛い!