若旦那様の憂鬱
第一章 家族の在り方

プロローグ

始めて彼に会ったのは10歳の時、

迷い込んだ庭先の弓道場の垣根越しだった。

凛と張り詰めた空気の中

袴姿で弓を構えて佇む彼に目を奪われ、

息をひそめて見入ってしまった。

そう、 

そこはまるで昔にタイムスリップしたかのような空間だった。

ビュン、という矢が風を切る音

トン、と的を射抜く音

シンとした静けさの中で、
ただ、それだけが響き渡る。

その人は真っ直ぐ的を見据え、息を整える。

垣根越し、一瞬目線が交わったように思い
ハッとする。

ドキンドキンと高鳴る胸は何を知らせているのか、その時の私はまだ子供で……。

ただ、目を逸らす事も出来ずにいた。

鋭い眼差しは怖いと思うよりも、

ただただ、美しいと思った。

あの時のあの瞬間、

私は一生忘れないだろう…
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