若旦那様の憂鬱
射場から矢道に降り垣根に近付く。

花⁉︎
何故ここに?

柊生は一瞬幻を見たのかと思った。

会いたいと思う気持ちが作り出した幻覚なのかと…

「花?そこで何してる?」
戸惑いながらもそう尋ねる。

今一番会いたくて、でも会ってはいけないと心に決めた。
この邪心を拭い去るまでは会えないと、思っていた。

「柊君…、邪魔してごめんね…あの、お弁当作って来たの。最近食べに寄らないし、ちゃんと食べてるか気になって…。」
花は遠慮がちにそう言う。

「…ありがとう。射場の方に回ってくれるか?」
花を一目見ただけで、嬉しくて込み上げてくる思いをひた隠し、柊生は平常心を何とか保っている。

パタパタと花は小走りをして射場の入り口に向かう。

「花、走るな転ぶぞ。」
垣根越しについて歩く柊生がそう注意する。

だって、だって会いたかったんだもん。

花は心で答えながら早歩きで射場の入り口に辿り着く。

息を整え引戸に手を掛けようとすると、中から柊生がガラガラ、と開けてくれた。
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