若旦那様の憂鬱
そこには今まで見た事の無いほど鎮痛な顔の柊生がいた。
なんだか悪い事をしたみたいに申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい。お兄ちゃんって呼んで…怒ってないの?」
柊生は花の言葉を無視して、無言で、花の指からタオルを取って指先を見る。
幸い血は止まったようで柊生はホッとする。
「花の、兄だから…別に怒ってない……。」
呟くようにそう柊生が言った。
それから救急箱から消毒液を取り出し吹きかけ、傷口が開かないよう絆創膏を何重にも重ね、包帯まで巻く。
「傷口が開くといけないから。しばらく安静にしろよ。」
神妙な顔で花から離れて行く。
なんだか傷ついたのは柊生みたいに見えてきて、花は心配になってくる。
数分後、
気持ちを落ち着けてダイニングに戻ると、いつの間にか着物を脱ぎ私服に着替えた柊生が、夕飯を食べずに待っていた。
「先に食べててくれて良かったのに…。」
そう声をかけて、ビーフシチューをお皿に注ごうとすると、すかさずお玉とお皿を奪われ、
「花は座ってろ。しばらく左手は動かすな。」
柊生の心配症が顔を出す。
大人しく言う通りにして花は向かいの椅子に座る。