若旦那様の憂鬱
弓道場を出ると花がサッと手を離す。

柊生は離れた手を残念に思いながら、仕方が無いとポケットに手を入れ歩き出す。

「花、外でも堂々と手を繋いで歩ける様にするから、覚悟しておいて。」
柊生は笑う。

こくんと頷く花が可愛い。

自宅までの少しの道をゆっくり歩く。

「また、メールしていい?」

「ああ、いつでも何時でも、用がなくてもメールも電話して。俺もそうするから。」

「明日、必ず出かけ前にも連絡しろ。
行きもタクシー使えよ。」

「うん、そうするね。」

「じゃあ、また明日な。」
キスをしたいが場もはばかられる。

花の頭を優しくポンポンと撫ぜて、家に先に入るように促す。

「玄関先、滑り易いから気を付けて。」
柊生が、そう言って笑う。

「もう大丈夫だよ。」
ムッとする顔を見せて、花が手を振って背を向け玄関に向かう。

ああ、どんな表情も可愛過ぎて気持ちが溢れ出す。もう、抑える事はしない。

玄関前でまた、花は振り返り手を振って家に入って行く。

きっと、明日から新しい1日が始まる。

幸せな気持ちで柊生も車に戻り、足取り軽く家路に着く。
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