若旦那様の憂鬱
スマホが震えてメールを受信する。

見ると噂の張本人で、ついドキッとしてしまう。

『大学何時に終わる?午後は外回りだから、時間が合えば迎えに寄れる。』

柊君から畏れ多いメッセージが届く。

「何なに?誰からのメール?」

「えっと、柊君だった…。」

「えーー!!羨ましい。何て?」

「何か…時間が合えば迎えに寄るって。」

「いいなぁいいなぁ。花のとこ何時に終わるの?」

「今日は、6時限まであるから4時近くかなぁ。」

「えー、残念…。私7時限まであるー。
一緒に乗せて頂きたかったぁ。」
詩織ちゃんは本気で残念そうに机に突っ伏す。

「私もバスで帰るよ。仕事中だし申し訳ないよ。」

「せっかく迎えに来てくれるって言ってるんだよ。甘えなきゃダメだよ。遠慮なんてしちゃダメ、断るなんて妹失格。」

詩織ちゃんにダメ出しされる。

「えっ?詩織ちゃんだったら迎えに来てもらうの?」

「もちろんだよ。甘え上手にならなくちゃ。
男心をくすぐるのよ。まぁ、花は妹だけどさぁ。」

そう言うものなの?恋の駆け引きなんて私には無理だ…。

机に置いたスマホが突然震える。

着信は柊君だった。
きっと、返信が無いから電話してきたんだ。

「えっ!柊様⁉︎早く出て出て!」
詩織ちゃんに促される。

「もしもし、お仕事お疲れ様…。」

『花も、学校お疲れ様。で、帰りは何時?迎えに行きたい。少しでも会いたいんだ。教えて。』

なんてストレートなお言葉…。
お陰で心拍数も急上昇する。
 
「えっと、…4時、くらいかな。」 

『分かった。迎えに行く。
若干遅くなっても待ってろよ?』

「分かった…待ってるね。」

『じゃあな。』

時間にしたら1分ほどの電話だったけど、
手に汗握るほど緊張した。

「いいなぁ。妹になりたい。」
お昼休みの間中、詩織ちゃんからは何度となく羨ましがられ、私はと言うと、所在なくひたすら苦笑いするしかなかった。
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