若旦那様の憂鬱
席を立ち一礼して歩き出す。

「ちょっと、待って。」
突然、手首をぎゅっと捕まれてビクッとする。

「帰りは?大丈夫ですか?
僕が送りたいところですが…振られてなお未練がましいですよね…、
良かったらタクシー呼びましょうか?」

振った私なんて放っておいて、
気にせず帰ってくれればいいのに……。

「大丈夫です……迎えが来ますから。」
泣きそうになりながら、ちょっと怖いとパニックになる。

捕まれた手首を前嶋さんは名残惜しそうにそっと離してくれた。

私はペコリと頭を下げて足早にその場を離れる。振り返らないよう出口まで急ぐ。

あっ、柊君の車だ。
黒光りするスタイリッシュなスポーツカーが
ロータリーの隅に停まっていた。

走り寄ると、柊君がわざわざ降りて来て助手席のドアを開けてくれる。

「ありがとう。お仕事お疲れ様でした。」

柊君の優しい笑顔を見て、
私もホッと緊張が解かれて笑顔を返す。

「花もお疲れ様。よく、頑張ったな。」
そう言って頭を撫でて、助手席に座るように誘導してくれる。

はぁーー。緊張した…。
人を振るのも振られるのも心が痛い事を知る。

柊君は素早く運転席に戻り、シートベルトを締め車を出す。

「可愛い格好だな……ジャージで充分だったのに。」
運転しながら渋い顔をする。

「ふふふっ、まだ言ってる。」
私は笑って聞き流す。

「何で泣きそうな顔?どうした?」
柊君には隠せそうも無い…。

心の乱れがバレてしまう。
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