若旦那様の憂鬱
「夕飯、何が食べたい?寄って帰ろう。今日は作ってないんだろ?」

「食べて帰っておいでとは言われたけど…。」

「じゃあ。俺と食べて帰ればいいだろ。和洋中何が良い?」

「柊君と2人で食事なんて…誰に見られるか分からないよ。変に思われないかなぁ。」

柊君はこの街じゃ、そこそこの有名人だから2人だけでの外食は何かと気を使う。

「康生とは気軽に行くのに俺とは行けないって言うのか?」
ムッとした顔で柊君が言う。
いつも康君と張り合うのって何でだろう?

「康君と、柊君では知名度が違うんだよ。この街では、柊君はそこそこ有名人なんだから。」

「そこそこって…。
まぁ、花と俺だったら兄妹って思うだろうし、コソコソ隠す事も無い。俺は堂々と花を連れ歩きたい。」

堂々と歩かれたら、それはそれで柊君のファンにひんしゅくを買いそうだけど……。

「…。じゃあ…イタリアンでお願いします。」 

「了解。その前に寄るところがある。」

「うん、いいよ。」

そう言って着いたところは何処の駐車場で。

「10分ぐらい待ってて、直ぐ戻るから。」
柊君は足早に何処に行ってしまった。

車内はエンジンをかけたままにしてくれた為、眠くなるほど暖かくて少しウトウトしてしまう。

ガチャっとロックが解除された音で、ビクッとなって目が覚める。

「ごめん。起こしたか?
20分くらい店までかかるから寝ててもいいぞ。」
車に乗り込んだ柊君は私の頭を撫ぜて、優しく笑ってそう言う。

「いやいやいや…お仕事で疲れてる柊君を放って寝ちゃダメだよ…。」

「別に構わない。花の貴重な寝顔が見れるし、逆に寝てくれ。」

私は慌てて、ぶんぶんと顔を横に振る。
「目が覚めたから大丈夫…。」

「なんだ…残念。」
柊君がそう言って笑う。
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