若旦那様の憂鬱
「俺は、いつだって、誰と何処へ行こうが1番に思うのは花の事だった。」

一瞬、間があった後、柊生は真剣な眼差しでそう話始める。

「でも…、あの頃、花はまだ中学生で…俺は社会人で…花に惹かれている自分をひた隠しにするしかなくて、自分自身も何かの気の迷いだと、吹っ切らないといけないって抗っていたんだ。」

兄を演じながらそんな葛藤をしていたなんて、花はこれっぽっちも知らなくて…。

「『貴方は私を見てない』って言われて気付いた。
俺は花をどうしようもなく愛してる事に、それ以来、彼女はいない。」

手をぎゅっと握られて、花の心拍は急上昇する。

「柊君はずっとお兄ちゃん目線なんだと思ってたから…私。」

そんな前から私の事を思っていてくれたなんて、思わなかった花は内心びっくりする。

「それに、本当の自分で居られるのは花の前だけだ。
……俺の愛は重いだろ。」
と、柊生が苦笑いする。

「私だって、いつから柊君が好きなのか分からないくらいずっとだよ…。」

恥ずかしそうに少し拗ねたように花が言うから柊生が笑う。

「好き度合いなら、花に負けない自信がある。」
何故か張り合あおうとする柊生が大人気ないなと思うけど可愛くて、愛しくて、嬉しくなる。

「私の方が負けてないよ。」

花もそう言って柊生の手をもう一方の手でぎゅっと握る。

2人して見つめ合って笑う。

「良かった…花のことはもう2度と離さない。
誰になんと言われようと。覚えておいて。」

そう言って、握られた手をそっと離す。

柊生はフッと優しい表情で微笑んだかと思うと、おもむろにポケットから小さな箱を取り出し、花の目の前に置く。
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