若旦那様の憂鬱

「花のせいじゃない。
俺が花を意識し過ぎて、このままじゃ兄でいられなくなると思ったんだ。それに、社会人になったのにいつまでも、実家暮らしじゃカッコつかないだろ。」

「…誰にカッコつけたかったの?」
花は、首を傾げる。

「…花に……。」

「私⁉︎えっ?いつもカッコいいと思ってるよ?
柊君のカッコ悪いとこなんて一個も無いよ。」
柊生は軽くため息を吐きながら、

「花は…何も分かって無い。
好きな女が同じ屋根の下で、一緒に暮らすなんて拷問に近い事が出来るか。
俺だって健全な男なんだ。少しは用心しろよ。」

花は柊生の言っている言葉の意味が、頭で考えても追い付かなくて、首を傾けながらしばらく瞬きを繰り返す。

「えっ……えっ!?」

柊生は、花の反応の遅さに苦笑いしながら

そう言う事だ。
と言う様に頷き爽やかな笑顔になる。

この爽やかを絵に描いたような?
この穏やかな若旦那の仮面を被った人に?

そんな、獰猛な雄のような感情があるの?

花は信じられない物を見る様な顔で、しばし目の前の男の顔を見つめ続ける。

そんな花のポカンとする顔を見て、

それはそれは穏やかに笑いながら、

「なんなら今だって、その可愛くポカンと開いた口に、舌を差し入れたらどんな顔をするだろうって思ってる。」

はいっ⁉︎

な、何を言ってくれちゃっているのだろう⁉︎

花は目を見開いて驚く。

目の前で優しく微笑む男が、もう何年も前から知ったふうに思っていた裏の顔よりも、他にもまだまだ見た事ない顔がある事を知って、花の頭の中は軽くパニックになる。

ハハハッと、さも可笑しそうに笑う柊生とは裏腹に、
花はとんでもない人を好きになってしまったのではと、心配になる。
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