若旦那様の憂鬱
「…少し浮かれ過ぎだな俺。
花には全て曝け出してるからつい気が緩んだ。
怖がらせるつもりは無かったんだ…。」

耳がついてたらきっとシュンと下を向いてるんだろうな。
そう思うほどにシュンとした子犬のようになった柊生は、可愛いと思ってしまう。

「柊君て、秋田犬みたい。」

ふふっと花が笑いながらそう言う。

「はっ…?」

パスタを食べる手を止め柊生は花を見る。

たまに花の感性に追い付かない事はある…。

柊生から見れば、
花の頭の中の半分はお花畑なんだと思っているから。
いつもお花畑の中に住んでいて、
赤ちゃんはコウノトリが運んで来てくれると、本気で思っているんじゃないかと思うほどで。

感性豊かなその感覚は凄いなと、
尊敬にも似た思いも抱いていた。

が……。

自分の事を秋田犬だと例える、その感性にはお手上げ状態だ。

「…その心は?」

だから、柊生は答えを求めてつい、聞いてしまう。

「普段は凛々しくて、カッコよく構えているのに、たまにシュンとなってきゅっと丸くなっちゃうところ。」

ああ、聞いても良く分からないな……。

そう言う理解出来ないところも、堪らなく好きなのだけど。

柊生は苦笑いして、

「なるほど…。」
と呟くに止まる。

「あっ、なんかバカにしてる?」
花が口を尖らせて怒ったふうにする。

その姿まで、全て可愛くて愛しいだけだが。

「いや、むしろ尊敬してる。」
本気でそう思うから、そう真顔で返す。

「絶対バカにしてる。
花の頭はお花畑だから理解出来ないって思ってるんでしょ?」

まだ、花はケンカをしたいかのようにプンッとして続ける。

柊生は困って花の頬に手を差し伸べて優しく撫でる。

「お花畑って言うのは、俺にとっては最大級の褒め言葉だ。覚えておいて。」

思いがけない反応で、花はポッと赤くなって俯く。

兄だった柊生だったら、
こんな時いつも揶揄って、軽く言い争いみたいになるのに…、

彼氏になった柊生は、とても甘くて優しくて、まったくケンカを買ってくれない。

「優し過ぎて反応に困るよ……。」
俯きながら花が言う。

「もう、兄の顔するのは辞めたんだ。
花のいろんな顔を見たくて揶揄って怒らす事ももうしない。
花とはもっと仲良くなりたいから。」
 
そう言って、パスタを花の取り皿に分け入れ食べるように促す。

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