若旦那様の憂鬱
車で少し緩いカーブを上って行く。

開けた場所に駐車場があって何台か車が停まっていた。

花は車から降りるのを少し躊躇する。

「どうした?」

助手席のドアまで回って来た柊生がドアを開け、心配そうに花を覗き込む。

夜に公園に来る事は、花にとって初めての体験で、
暗闇の公園は怖いと思ってしまう。

「怖いのか、辞める?」
柊生が優しくそう言ってくる。

夜景、見てみたい。
恋人達のデートスポット…柊君と一緒に。

そう思って、勇気を振り絞り車から降りる。

「ちょっと待って。」
そう言って、柊生はトランクからマフラーを取り出し、花の首元にぐるぐると巻き付ける。
「俺のだけど、少しは暖かいだろ。」

こくんと頷いて
「ありがとう。」
と、花が言う。

「手袋もあるけど、花には大き過ぎるな。」
そう言って、花の手を握って柊生のコートのポケットに入れる。

「行こうか。」

このマフラー柊君の匂いがする。
いい匂い、安心する。
花は鼻までマフラーに埋めながらそう思う。

さっき車で脅されたけど、やっぱり柊君は柊君だ。
どこまでも優しくて、心配症で過保護は変わらない。

そう思ってホッとする。

オオカミになる柊君もちょっと見てみたい。多分怖くは無さそう、秋田犬くらい可愛いと思う。

花はそんな事を思いながら柊生の横を歩く。
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