若旦那様の憂鬱
花は、玄関まで母に付いて行き
「いってらっしゃい。」
と、手を振って送り出す。
母が振り返って、こそっと早口で言う。
「花、柊生君と付き合う事になったんだってね。良かったわね。まだ、正俊さんには刺激が強いから内緒にしといてあげる。じゃあ、行ってきます。」
「……えっ…えーっ⁉︎」
話したの?柊君もう話したの⁉︎
花はバタバタとキッチンに戻り柊生を見る。
柊生は、どうした?と言う風に花の顔見つめてくる。
「お、お母さんに、話したの?」
「ああ、早い方がいいと思って。」
何事も無かったかのように、柊生は言う。
花は瞬きを繰り返し、
「えっ⁉︎なんて言ったの?」
と、聞く。
「花と付き合う事になりました。いずれは結婚したいと思ってますので、花を僕に頂けますか?って。」
花は目を見開いて柊生を凝視する。
「お、お母さんは何て?」
「花はボーっとしてるし、
おっちょこちょいですぐ転ぶし、すぐ泣くし、まだまだ子供だけどあの子でいいの?
って。」
「…柊君は……何て?」
「僕が花がいいんです。花じゃなきゃダメなんです。って言ったら女将さんが、俺だったら安心だって言ってくれたから、認めて貰えたんだと思う。」
「それだけ?」
「ああ、それだけ。」
「そんな…簡単な事?」
花はつい、首を傾げて柊生に聞いてしまう。
「まぁ、さすが花のお母さんだなとは思ったけど。」
「……お母さんと、私って…似てる?」
「ああ、普段ふわふわしてるのに、いざとなると肝が据わってるって言うか、結構揺るがないところとかよく似てる。」
「そうなんだ…。いやいや、そんな事より…!!
まだ戸籍も兄妹なのに大丈夫なの?」
「女将さん的には大丈夫なんじゃ無いか?
親父の方が面倒くさいだろきっと。
とりあえず、強い味方が出来たと思っておけばいいんじゃないか?」
そんな感じでいいんだ…。
この気持ちを柊君に伝えたら、何かが変わってしまいそうで、ずっと怖かったのに…。
花は、何だか力が抜けてしまう。
「とりあえず、朝ごはん冷めるから食べようか。」
柊生がそう言うので、
「うん。」
と、頷いて席に座る。
いただきますをして2人で食べ始める。
「今日は暇?」
柊生が簡単に聞いてくる。
「バイトが夕方からだけど後は空いてるよ。」
「じゃあ、食べ終わったら出かけるから。」
「えっ、今から?どこ行くの?」
「そうだな、まずは映画館から行こうか。
俺の休みはそう無いから、今日みたいに1日空いてる日は貴重なんだ。」
「それだったらのんびりした方が…。」
「出来るだけ一緒にいたいって思ってるのは俺だけか?」
被せ気味な柊生が問う。
花はぶんぶんと首を横に振る。
「私だって、一緒にいたいけど、ちゃんと体を休めなきゃ、柊君が倒れちゃうよ。」
「それなら問題無い。
花が側にいれば癒されるから。花はいつだって、誰にだって遠慮し過ぎだ。せめて俺だけには遠慮しなくていい。もっと頼って、甘えてくれた方が嬉しい。」
柊生が分かった?と言う風に目を見てくるから、花はこくんと頷き、残りのご飯を食べ始める。