若旦那様の憂鬱
「お待たせ、しました。」

リビングに行くと既に片付けを終えた柊生が、新聞を見ながら待っていた。

「ああ。」
と言って顔を上げる柊生が一瞬止まる。

「えっ、何?なんか変?」
花は心配になって自分の服を慌てて見る。

と、唐突に柊生に抱き締められる。

「何このふわふわな手触り。ずっとこうしてたいくらいなんだけど。ウサギかなんかの化身か?」
そう言って花の背中を撫ぜ、ふわふわのニットの手触りを楽しんでいる。

現実主義者の柊生らしからぬ言動に花は慌てる。
「だ、大丈夫、柊君?お疲れ気味なんじゃ無い?
ちゃんと寝れてる?なんか変な思考回路になってるよ?」

心配して柊生を見上げる。

「…花のお花畑が俺に乗り移ったのかも…。」

笑ってさっきよりもギュッと抱きしめてくるから、さすがに花は苦しくて柊生の背中をトントンする。

「く、苦しいよ、柊君、ギブギブ。」

「はぁー癒された。
よし、じゃあ行くか。のろのろしてたら康生が起きて来るな。アイツにだけは邪魔されたく無い。」

そう言っていそいそと、花の手を握り玄関へ向かう。
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