若旦那様の憂鬱
カップルシートのホールに入ると、足が伸ばせる程大きな、2人掛けソファがいくつか置いてあって、周りを気にせず寛げる空間だった。

「花、靴が脱げる。
凄いな、こんな場所があるなんて知らなかった。」
ソファに座った柊生は、子供みたいにはしゃぎトントンとソファを叩いて花を誘う。
そんな自然体の柊生の珍しい姿を見て、やっと花も緊張が取れる。

「ふふっ、柊君、子供みたい。」
そう言って、靴を脱いで柊生の隣に座る。

「凄いね。ベッドみたいにフカフカしてる。」
花は触り心地を確かめてソファを撫でながら言う。

「ヤバいな…これじゃ寝ちゃいそうだ。」
柊生はそう言いながら花を引き寄せ、自分の肩に花の頭を寄りかからせる。

そうしてから、置いてある膝かけを花の膝にかけて、
「これで良し。」
と呟くから花はくすくす笑ってしまう。

「あっ、私トイレ行っておきたい。柊君ちょっとついて来て。」
そう言って柊生を誘う。
せっかくポジションが決まったのに…と、若干迷惑そうな顔をしながら、仕方が無いなと柊生は立ち上がる。

「そういえば、花が実家に越して来てしばらく、俺をトイレに誘ったよな。アレは暗闇が怖かったからか?」

「だって、廊下って暗くて長いから…。」
トイレに向かいながら2人で昔の話をする。

「いつもなら康生を頼るのに、俺を指名してくれたから、内心頼られて嬉しかった。」

「そうなの?
だって、康君めんどくさがって付いて来てくれなかったし…柊君は嫌な顔しないで来てくれたから。
今思うと子供っぽくて、恥ずかしいよね…。」

「花はそれでいいんだよ。むしろずっとそのままでいて欲しい。」

トイレに着いて、小さく手を振って入って行く姿すらも可愛い。と思いながら壁にもたれて花を待つ。
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